湘南二都物語 第2幕 ミニバスの走る街

第11部 鎌倉駅西口〜桔梗山・鎌倉中央公園(江ノ電バス・京急バス)

 

2000年3月16日(木)、鎌倉の山峡に一本のミニバス路線が開通しました。

この路線は、今まで公共交通の空白地帯だったところを貫き、

渋滞のほとんどない道を、軽やかに走ります。

山深い谷戸を横切る沿道には、落ち着いた静かな鎌倉のたたずまいが感じられます。

羽田空港線に引き続き、江ノ電(桔梗山行き)と京急(鎌倉中央公園行き)の共同運行です。

(2000.5.5.富士見台付近の風景を展示替え。藤色字の部分です。
2003.12.28.運行の子会社委託による記述変更、緑字の部分です。
2006.1.1.山の上ロータリー〜鎌倉中央公園間延長開業に伴う加筆。青字の部分です。)

 

 鎌倉駅西口にて降車扱い中の、江ノ電こまわりくんです。 

 この路線のスタート地点は、正確には鎌倉駅西口ではなく、鎌倉市役所前です。鎌倉駅西口(地元では、裏駅と呼ばれています)駅前には一応ロータリーがありますが、狭く、タクシー乗り場もあるために日中は空車のタクシーでいっぱいになってしまい、たとえミニバスといえども今のところ入る余地がありません。とりあえず降車のみ、扱うようです。

 裏駅などというと、なんか地味な印象ですが、本当はこちら側の方が、鎌倉らしい風情があるとも言えそうな気がします。反対側の東口は、やや手狭ですがバスターミナルとなっており、駅舎も寺社風に改築されていて、いかにも表玄関という雰囲気ですが、ややメジャーになりすぎた観があります。
 裏駅には、前述のように小さなロータリーがある他、駅舎改築前の古い時計台(現駅舎には新しいものを設置)がシンボルとして保存されており、忘れてはならない江ノ電乗り場も、裏駅側にあります(左の方に見えますね)。
 東口からはすぐに、小町通りや若宮大路・鶴岡八幡宮といったメジャースポットに行けますが、裏駅からは鎌倉五山の一つ寿福寺や、銭洗弁天、佐助稲荷といった観光スポット(どちらかというと、地味で落ち着いたスポットですね)に行くことができます。また、春のお花見や小学校の遠足・ハイキングなどでおなじみの源氏山公園も、裏駅側です。

 小町通りなどが東京の原宿化してしまった今、裏駅の落ち着いた雰囲気は北鎌倉付近と並び、鎌倉本来の良さを残していると言えそうです。

   
 ここが事実上の始発地点、鎌倉市役所前です。京急ポニー号の山の上ロータリー行きが停車中です。
 裏駅からここまでの距離は200メートル強で、初めての人にはちょっとわかりにくいかも知れませんが、割と至近です。市役所の建物は、左側に見える木の茂みの向こう側にあります。

 今回運行開始したこの路線は、江ノ電(こまわりくん)と京急(ポニー号)の共同運行ということで、定期券も共通使用できますが、行き先が終点付近で微妙に異なっています。梶原バス停から先、江ノ電が桔梗山行き、京急が鎌倉中央公園(最終便のみ山の上ロータリー)行きとなっています。
 運行本数も、江ノ電:京急=18:12の割合で、特に京急は、日中のみ(9時〜17時)の運行です。これは多分、江ノ電が専用車で運行しているのに比べ、京急は同じ鎌倉市内でポニー号を運行する路線、大船駅〜桔梗山線(「ミニバスの走る街・第7部」で紹介)と車両を共用している他、山の上ロータリー付近が住宅街で、朝夕の運行を避けたということもあるかも知れません。

 ところで、この鎌倉、特に旧市街といわれる鎌倉駅周辺の土地は、ちょっと地面を掘ると、すぐ何らかの遺跡が出てくるため、工事などを進めるのは大変です。市役所の裏手にある、市立御成小学校でも、最近行われた改築の際に、それまでの古い木造校舎を残して欲しいという市民運動が起こり、遺跡の問題などとも絡み大きな問題になりました。
 もっとも、旧市街地は古都保存法という法律により、やたらな開発はできなくなっていますが。

 市役所の裏手には、すぐ鎌倉独特の低い山が迫っており、鎌倉市役所を出たミニバスは、すぐにトンネルに入ります。秋には紅葉で色づくこの低い山々は、これからご紹介するミニバス路線の行く手にもいくつか現れ、山と山の間は、これも鎌倉独特の「谷戸」と呼ばれる狭い谷あい状の地形になっています。

   

 山と山に挟まれた谷間をミニバスは、都合3本のトンネルで抜けていきます。そのうち、長谷大谷戸と呼ばれるこの付近では、鎌倉の典型的な谷戸の風景を見ることができます。
 ここに写っているのは、長谷大谷戸バス停を発車した、鎌倉駅西口行きこまわりくんです。
 ここはちょうど長谷の大仏殿(高徳院)の奥に当たり、谷戸もかなり狭まっています。この道(市道)は比較的交通量が少ないため、付近は普段、静かな雰囲気に包まれています。

 この道は全線2車線ですが、鎌倉駅に行くのにはいいのですがその先に抜けようとすると、狭く複雑な路地に入り込まねばならず、そのため地元の人以外には、あまり利用する人はいません。そう言う意味で、路線バスのような公共交通機関には、都合の良い道といえるでしょう。
 1999年秋に行われた交通実験でも、深沢国鉄跡地〜鎌倉駅間のパーク&バスライドでは、この市道経由でシャトルバスが運行されました。
(交通実験の模様はこちら
   

 仲ノ坂付近を行く、桔梗山行きこまわりくんです。

 谷戸の区間も過ぎ、ミニバスは旧市街の外に出ました。
 この付近一帯は、常盤と呼ばれるエリアで、このミニバスが開通する以前は、公共交通機関が全然ないエリアでした。ここにはちょっと市道から入った奥に、こじんまりした住宅地が広がっているのですが(常盤住宅地)、この住宅地に住む方々は今回のミニバス路線開通で、最も恩恵を受けたのではないでしょうか。

 ただ鎌倉という土地は、総じて住んでいる方々の意識が高く、自らの居住環境を壊されたくない、あるいは周辺の環境保護を優先したい、という思いを抱いている方々も多くいらっしゃいます。このミニバス路線も、開通までには紆余曲折がありましたが、沿道の人々が全て開通に賛成していたわけではないことも、覚えておかねばならない点でしょう。
 先ほどちょっと触れた常盤住宅地など、個人的には大船駅〜桔梗山線で行われているようなデマンド運行(停留所にバスを呼ぶボタンが付いており、そのボタンを押さないとバスが来ない。)をすればいいのに、と思ったりしていたのですが、今回そうならなかったのは、あるいは住民の総意が得られなかったためかも知れません。

 公共交通機関が開通するということは、はたから見れば便利になっていいな、という風に思われ、実際そういうケースが多いわけですが、今回のように、必ずしもそうではないケースもあることは、地域の公共交通機関のあり方を考える上で、忘れてはならないことでしょう。

   

 八雲神社前交差点を左折し裏駅へと向かう、こまわりくんです。
 画面中央を左右に延びる道は、県道藤沢鎌倉線で、在来のバス路線が通っている道です。

 この県道は、藤沢から手広・深沢を経て大仏切通しをトンネルで抜け、大仏・長谷観音前を経由して鎌倉旧市街中心部へと抜けるもので、鎌倉西部から旧市街へ入る幹線道路です。
 そのため交通量は非常に多く、これまで慢性的な交通渋滞に悩まされてきました。シーズン中の休日などひどいときは、この付近からずっと長谷付近まで渋滞することもあり、こうなるとここを通る路線バスは、完全にマヒ状態になってしまいます。
 よって、地元(ここでは主に梶原地区)の方々は、先ほどからご紹介している市道を裏駅までずっとマイカーで行ってしまう例が多かったものと思われますが、今回のミニバス路線の開通で、事態は「多少」改善しそうです。

 「多少」と断ったのには訳があります。ミニバス路線はここからバス停一区間(常盤口〜梶原口)、県道を走るのですが、この区間も、結構頻繁に渋滞するのです。また、先ほどからたどってきた市道も、裏駅方面に向かう分には目立った渋滞区間はないのですが、逆コースはこの常盤口での県道合流地点で、よく渋滞が発生するのです。このため、このミニバス路線の定時性は、完全に保たれているわけではないのです。土休日などは、特に午後を中心にダイヤの乱れが予想されます。

 もっとも先般の交通実験のあと問題になったように、鎌倉へやってくる車の数が減り始めていることを考えると、先の見通しはそれほど悪くはなさそうです。また距離的に見ると、三角形の二辺を行く形になる長谷廻りの県道経由よりも、ショートカット路線の市道経由の方が短く、時間的にはかなり改善されています。

   
 さてミニバスは、梶原口までやってきました。県道から梶原方面へ曲がろうとしている、こまわりくんです。

 ここは梶原山住宅地の入り口で、信号がついてますがロータリー式三叉路となっています。交差点の中央に島があるロータリー式交差点は、三浦半島ではよく見られ、この付近にもこの他に鎌倉山ロータリーや、これからご紹介する山の上ロータリーなどがあります。

 梶原山住宅地は、1970年頃開発されたもので、これから向かう桔梗山は、この住宅地の一番奥の方になります。ここには住宅地開発当初から、鎌倉駅、藤沢駅、大船駅から、それぞれ江ノ電や京急の在来路線バスが乗り入れていました。江ノ電バスが一番奥の桔梗山まで、京急はその少し手前の梶原での折り返し運行です。
 1995年10月に、先ほどもちょっと触れた京急ポニー号で運行する路線、大船駅〜山の上ロータリー〜桔梗山線が開通し、この地区のミニバス導入の先鞭をつけました。

   

 梶原山住宅地のほぼ中央にあたる、梶原バス停付近です。写っているのは鎌倉駅西口行きポニー号です。

 これまで仲良く共同運行してきた江ノ電と京急のミニバスは、ここで二方に分かれることになります。江ノ電はこの道をさらに直進し桔梗山へ、京急はこのT字路を左折して、山の上ロータリーへ向かいます。距離的には、どちらもほぼ同じです。

 梶原山住宅地は、野村不動産が開発を手がけたもので、そのせいかどうか、この道をちょっと桔梗山側に行くと、野村総合研究所の大きな入り口があります。梶原までの京急バスは、この入り口部分のスペースを使って折り返しています。交差点の向こうに、折り返してきた京急在来路線バスが見えています。

   
 今回のミニバスの旅も、いよいよ終盤にさしかかりました。桔梗山への急坂を登っていく、こまわりくんです。

 今回の開業に当たり、江ノ電では手広営業所にミニバスを3台増備しましたが、この3台はこれまで導入してきた日産ディーゼル製ミニバスと異なり、江ノ電初の日野リエッセ(39人乗りオートマチック車)の採用となりました。
 リエッセは1995年、京急ポニー号で初めて路線バスに採用されて以来、神奈中をはじめとする各地のミニバス路線に採用されたベストセラーで、その丸っこいボディーが、ミニバス独特のかわいい雰囲気を醸し出しています。江ノ電での愛称は、従来の「こまわりくん」を引き継ぎました。

   

 終点、桔梗山です。

 ここは梶原山住宅地の最奥、山の頂上に位置する、自然の香り豊かな、閑静な終着点です。周りには、鎌倉グリーンハイツという中層集合住宅がおだやかに広がり、一たびバスが走り去ると、住民の声が時々こだまする以外は、鳥のさえずりしか聞こえません。

 今回の路線開通で、この桔梗山には4つの路線が乗り入れることとなりました。一番古いのが藤沢駅・鎌倉駅に向かう江ノ電在来路線、次が京急ポニー号・大船駅〜桔梗山線、そして最後が今回開通の鎌倉駅西口線です。
 静かな山あいの終着点だったここも、今や重要な交通結節点として、注目される存在となりました。でも、この静かなたたずまいだけは、ずっとそのままであって欲しいものですね。



 

 さてこちらは、ポニー号で運行の鎌倉中央公園線、富士見台付近の風景です。

 桔梗山側が自然豊かな風景なのに対し、こちら側は瀟洒な住宅が続くエリアになっています。
 梶原T字路を左折したポニー号は、ご覧のようにカーブした急坂を山の上ロータリーに向けて登っていきます。ここは道沿いに桜並木が続き、お花見シーズンにはきっと見事なことでしょう。
(2000.5.5.ソメイヨシノが満開となった富士見台付近の風景を展示。)
 この付近には、他にも沿道の桜がきれいなところがあり、人々の目を楽しませてくれます。例えば鎌倉山など、バス通り沿いにずっと桜並木が続き、シーズン中は実に見事です。

 富士見台のT字路をさらに右折すると、あとは山の上ロータリーまで一直線の上り坂です。

   

 山の上ロータリーの風景です。ポニー号が向こうに見えますが、ちょうどその付近に乗り場があります。
(2005.12.16.の鎌倉中央公園への延長開業で、この乗り場は廃止され、大船駅〜桔梗山線の山の上ロータリー停留所(写真向かって左側)と統合されました。)

 ここも山の頂上ですが、桔梗山と違いこちらは、周りを瀟洒な住宅に囲まれています。
 この付近(寺分地区)は、京急ポニー号・大船駅〜桔梗山線が開通したとき、初めてバスが通ったところです。それまではこの付近も、他に交通機関のないエリアでした。大船線は、このロータリーをかすめて通る(この位置からだと、向かって左側の方です。)だけですが、鎌倉駅西口線は、このロータリーをフル活用し、ロータリーの周りをぐるりと回って折り返します。
(延長開業後は、単に通過するだけになりました。)


 さて、2005年12月16日、この路線は従来の終点だった山の上ロータリーから、少し先にある鎌倉中央公園まで路線を延長しました。

 公園入口から、公園内に進入しようとしているポニー号です。右手が山の上ロータリー方面、左手へ向かうと旧京急専用道に出て大船方面へ出られます。
 件の大船駅〜桔梗山線が、この道を通っていますが、停留所は山の上ロータリー以外は共用していません。

 ここを入ると公園の門があって、鎌倉中央公園入口停留所は、ちょうど門のすぐ内側に新設されました。

 そしてここが、新しい終点の鎌倉中央公園です。
 山のふもとの小さなバス回転場に、2台のポニー号が並んで止まっていました。

 鎌倉中央公園は1997年6月に一部開園の後、2004年4月に全面開園した鎌倉市立の公園で、文字通り、鎌倉市の地理的な中心部分に位置しています。
 公園内は、入ってすぐのエリアが緑化意識の高揚を目的とした「都市緑化植物園ゾーン」、となっており、奥に入っていくと、現存する谷戸や田畑などの景観を保ちつつ多様な余暇活動の場としての利用を目指した「自然活用ゾーン」や、樹林地や湿地に棲む小動物や鳥類、野草などを保護し、景観や生態系に配慮した「保全ゾーン」といったエリアに分かれています。

 わけても、自然活用ゾーンに残る、谷戸の奥まで水田や畑の続く風景は、これが鎌倉の原風景なのかな、と思える印象的なものでした。

 

路線の概要(2006年1月現在)

運転系統                                   −手広車庫
  鎌倉駅西口−鎌倉市役所前−長谷大谷戸−常盤口−梶原−桔梗山(江ノ電)

                                      −山の上ロータリー−鎌倉中央公園  

  ※鎌倉駅西口は降車のみ。下り始発は鎌倉市役所前から。
  ※京急便は、山の上ロータリー止まりが鎌50系統、鎌倉中央公園便が鎌51系統。

所要時間    桔梗山・手広車庫線 全線15分     鎌倉中央公園線 全線14分
運転状況        運転時刻については、神奈川バス案内WEB(江ノ電)、
                     停留所時刻表検索(京急バス)をご参照ください。
運 賃
 
鎌倉中央公園
        桔梗山
山の上ロータリー
(手広車庫)
170
      常盤口 170 170
    八雲神社前 170 170 170
  長谷大谷戸 170 170 180 200
鎌倉駅西口 170 170 210 230 230

    運賃後払い方式。後扉から乗車、前扉から降車。共通カード使用可能。
                                 (京急はバス共通カード)

担 当 江ノ電バス 手広営業所(手広車庫)(2003.12.16.江ノ島電鉄より運行委託)・
京浜急行バス 鎌倉営業所(下馬車庫)(2003.10.1.京浜急行より運行委託)
特記事項      江ノ電・京急共通定期券取扱
     2005.12.16.山の上ロータリー〜鎌倉中央公園間延長開業。

ホームへ戻る